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2007.11.22 (Thu)

『six children』1 

今考えているオリジナル小説の設定を頭の中で組み立てていくのが楽しい今日この頃。主にクリーニング屋でのバイト中に、機械的に手を動かしながらストーリーを考えていたり。

以下、その一部です。内容は暗くてキツめ。暇で暇で仕方ないという方のみ、どぞ。

【More・・・】

あの日。忘れもしない、五年前のあの日、あの時、あの瞬間まで。
私はずっと外に出ることすら叶わず、ただぼんやりと外の世界を眺めていることしかできなかった。


何年の時をあの部屋で過ごしただろうか。ただでさえ短いこの寿命の中、一体何年があの部屋で無意味に過ぎ去っていったのだろうか。
あの牢獄にも等しい狭い部屋の中で。
人目を避け寒冷地帯の山奥にひっそりと佇む一軒家の中の、剥き出しのトイレと鉄骨で出来たベッド以外には何もない部屋。ガラスの割れた窓は既に窓としての用を果たしておらず、ごうごうと吹きすさぶ風と雪を部屋の中に撒き散らしていた。
止むことのない恐ろしい寒気に、私は何時も可能な限り身体を丸くしながら耐え続けた。普通の人間があの時の私の状況に置かれたなら、多分、そいつは十日と持たずに凍死しただろう。
「おかあさん、だして!おとうさん、ここらかだして!」
そう叫びながらガリガリと鋼鉄製の扉を引っ掻いていた時期もあった。皮膚が裂け、爪が剥がれてもガリガリ、ガリガリ。
一週間ほど続けて、まるで無意味な行為なのだと悟り止めた。その後もドアにこびり付いて消えない自分の血の跡を見たくなくて、ずっと窓の方ばかり見ていた気がする。
当然髪は伸び放題。床にとぐろを巻いていた。
手足は今より一回りも二回りも細かったし、肌の色は色白の域を軽く通り越した青白さ。鏡がなかったから分からないが、顔の方も幽鬼並みに酷い有様だったんじゃないだろうか。
ドアには何重も鍵が掛けられていて、食事のトレイはドア下の小さな小窓から出し入れされる。当時五、六歳でなおかつガリガリに痩せていた私でも腕を出すのがやっとなくらいに小さな小窓。
完全に閉ざされた狭い世界の中で、それでも窓だけは何の囲いもされることなく開け放たれていた。
私を外に誘い出さんとするかのように、めいっぱい大きく刳り抜かれた外界への入り口。けれどいざ身を乗り出せば、此処は遥か大地の遠い六階建ての建築物の最上階、おまけに外の壁には足掛かりになりそうなものは見事なまでに一切ない。明らかに、作為性を感じさせる造りだった。

堕ちたら、生き残れないように。

そんな窓が常に全開にされているということは、それはつまり、私をこの部屋に押し込めたあの男と女による、「飛び降りたければいつでも飛び降りろ」という無言のサインのつもりなのだろう。
私が自発的にいなくなれば、その方が得なのだ。一応私の両親に属するあの人たちにとっては。
あの人たちにとって、自分が生まれてきたのは手違い。間違い。誤りだった。
彼らはきっと、普通の子供が生みたかったんだろうな、と今となっては何の感慨も湧かぬままに思う。普通の、ごくごく平凡な子供。たった二十年しか生きられなかったり、不気味なまでに早熟だったり、異常な力を使えたり、そういう面倒で異端で恐ろしいモノじゃない、どこにでもいるような当たり前の子供。
だから私は要らない。必要ない。邪魔でしかない。
消えて欲しいのだ。
昔――何時だったか忘れたけどそれでも確かにあった筈の昔、私の家庭は、なんの不都合もない幸福なものだった。父も母も優しく、私は精一杯両親に甘えることが出来た。自らの出生の秘密を知り、課せられた短命という呪いを知っても、確か私は微笑みながらこう言ったのだと記憶している。

「大丈夫、私にはお父さんとお母さんが居てくれる。だから寂しくも怖くもない。私は平気だよ」

そして私のような子供は両親と不和になるケースが殆どなのだと聞かされて、自分はなんて幸せなんだろうとも思った。
けれど結局、私の両親も例に漏れなかったというわけだ。
私が生まれた瞬間から、少しずつ、けれど確実に溜まっていた何かは、ある日突然爆発した。その切っ掛けが何だったのかは分からない。多分何かすごく些細なことで、知ったところでどうしようもないことだったのだろう。
唐突に、今まで両親だと思っていた人たちは私を「汚物」と呼んだ。私は汚物で、だから閉じ込めないといけないのだと。
彼らは呆然とする私の腕を引っ張り、押し込め、無表情で扉を閉め、無慈悲な金属の触れ合う音を立てながら鍵をかけた。その時の絶望すら不変の部屋の中では霞んでしまい、もうおぼろげにしか思い出せない。
別に怨んではいない。最初は泣きながら呪ったが、今はもう、わりとどうでもいい。愛情も、憎悪も、とっくの昔に代わり映えのしない毎日に溶けていった。今心を占めるのは、諦念と、絶望。そして、納得。
あの男と女が自分を恐れた理由も閉じ込めた理由は、ちゃんと判っている。何故汚物だと言われたのかもちゃんと判っていて、そう面と向かって言われた時はどうしようもなく傷ついたけれど、その単語が指し示す意味を今でなら正確に理解し、個人的な感情を抜きにするならば納得すらできる。
要らないのだ。いやむしろ、積極的に処分しないといけないモノなのだ、私という存在は。
所謂、爆弾。いつ爆発して甚大な被害を生むかもわからないような、非情に危険な爆弾。知識も度胸もないあの人達はその爆弾を扱いかね、そして自分から誰にも迷惑をかけずにひっそりと自爆してもらおうと思ったらしい。その手段がこの部屋であり、この窓である訳で。
子供が自ら飛び降りるならば組織の条約には反しないし、何よりあの人たちの罪悪感も薄くて済む。惨めで、陰湿。不可思議なものや煩わしいもの嫌う。触れようとせずに目を覆って耳を塞いで、逃げる。情けない、自分の腹から出したモノだというのに。いや、自分の腹から出てきたモノだからこそ、余計に気味が悪いのだろうか。目を逸らしたくなるのだろうか。
そう。けれど、あの人たちの立場になればこれは当然なのかもしれないと思う自分もまた、存在している。同じ立場に立ったとして自分が同じ行為を行うかどうかは甚だ疑問だが、それでも結局はやっぱり、運が悪かったのだ。あの人たちが絶対悪な訳ではない。ある意味では被害者だ。私を生んだあの人たちも、化け物に生まれた私も、運が悪かったのだ。
だからもう、どうしようもない。
生まれたのが間違いだったんだから、生きる意味なんてある筈もなくて。
寒さに震える身体を窓まで引き摺って、ひやりと冷たい窓枠に膝を乗せる。開ける視界。身を乗り出せば、其処に広がっているのは一面の銀世界と、その下に息づく無数の命。
堕ちてみようか、この美しい世界の中に。窓の外の世界は、私の胸のうちにそんな衝動を起こさせる。
それは途方もなく抗い難い欲求だった。
外の世界も、死も、当時の私には黄金色の魅惑の輝き。広い世界と解放された自分を思い描きながら、その日も私は、窓の外へと身体を乗り出した。

テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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